オタしなみ

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【評価レビュー】GUNSLINGER GIRL 作者:相田裕

GUNSLINGER GIRL  作者:相田裕

月刊コミック電撃大王:2002年7号月〜2012年11月号

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【評価 87点】※採点基準についてはコチラ

 

◆総評

「面白い、すごい」そんな評価軸からは外れ、
「この作品を通して見る世界の在り方」について考えさせられてしまう。
面白いというのは当然で、この漫画から多くの人が世界について考えさせれたと思う。

個人的には本作を「愛と希望」の物語だと思っている。
対象的なのがジョゼとジャンの兄弟だ。真に愛する者を持つジャンは死線を乗り越え生き延びた。しかし愛する者を結果的に見出せなかったジョゼは死へ向かってしまった。

本作には、社会福祉公社側・五共和国派どちらにも愛する者を持つ人や失った人たちが愛を守るため、復讐のために戦っている。だが、果たしてその愛だけで人が生きていけるのかと言うとそうではない。愛を持ち、愛を失った末に復讐に走り、その復讐を終えたときその人は死んでしまうのか。そうではない。愛を尊び、生きていればまた新たな愛に出会えるのだ。

それをこの世界では「希望」と呼んでいる。

こんなメッセージを本作から私は受け取りました。

 

◆点数内訳

・キャラ、世界観、設定(20点満点)
【17点】 
世界観について、完璧に近い。
後半巻からいくつも出てきたヨーロッパ特集記事を読めば分かる通り、相田先生の現地愛と圧倒的勉強量には本当に頭が下がります。
そんな舞台背景の凄まじさだけでなく、本作はおそらく先生の拘りで変化の早い携帯などの電子機器については敢えて描写しないようにしている。
長く読まれる名作だからこそ、ガラケーが出てきてしまうと少し萎えてしまう。銀河英雄伝説のアニメを見る度に、なんだこの据え置き電話は。。。と思ってしまうのと同じだ。
だからこそ、作中の過去編・未来編以外ではそういった変化を遂げるアイテムはあまり描かれていないのだ。そして逆に最終話の未来ではSF的オーバーテクノロジーが描かれている。
こういった先生のディティールへの拘りは凄まじ過ぎます。

設定について、こちらも素晴らしい。
特に義体が素晴らしい。この設定のおかげもあり本作は、銃弾が被弾するガンアクション漫画として成立できている。敵だけに着弾し続ける。それはあり得ない。ただ、味方に被弾し続けると描くキャラクターが居なくなる。だからこそ、この義体という設定を使ってガンアクションを描くという組み合わせの素晴らしさには感嘆します。

キャラについて
本作の数少ない減点ポイントを挙げるなら、それは主人公がいないことだ。これは簡単にいうと「読者が感情移入する飛び抜けた魅力を持つキャラクター」のことを指す。
作品の性質上、どうしても難しい。ジョゼが本物の愛を見つけることが出来ず、ヘンリエッタの愛にもエンリカの愛にも応えられないことが前提の時点で、読者はジョゼを主人公と思って読み始めているからこそ違和感が出てしまう。
ただ、逆にジャンが主人公かと言われるとそうでもない。
彼には作中での成長の過程がなさ過ぎる。

そのため、本作を読み進める中で、「誰がどうなったから嬉しい」そういった楽しみを見いだすことがしづらいというのが数少ない本作の評価が難しい部分だと思う。

 

・エンターテイメント(20点満点)
【15点】

少女たちの戦いの日々と記憶を失う姿に終わりを憂いながらも、テロリストとの戦いには心踊ってしまいます。実は戦闘シーンがそこまで多くないからこそ、考えられた義体ならではの戦闘が面白い。負傷を厭わないからこその義体としてのトリエラの強さと、洗練されたピノッキオという殺し屋の戦いも最高だった。

普通の漫画なら、最高だと太鼓判を推すだけなのだが、本作根幹の死を控えた少女たちへのテーマ性や美し過ぎるストーリーラインの伏線などでこのエンターテイメント性に関しては多少押し潰されてしまっているとも感じました。

面白過ぎるからこその難しさですね。

 

・ストーリー(20点満点)
【20点】

ここはもうね、満点でいいと思う。
後半の畳み掛けが凄すぎて本当に言葉がない。

これがすごい!みたいなことを挙げ始めるとキリがないのでやめておきます。ただ、クラエスの最後の戦いに際してのラバロ大尉伏線回収は感動の涙で何も見えなくなりました。

最高です。

 

・面白さ(20点満点)
【17点】 

一巻の完成度が高すぎる。ヘンリエッタ・リコ・トリエラ彼女たちを読者にどうやって紹介すればみんな興味を持ってくれるのだろう。そんな推敲を無限に繰り返した末に辿り着いた結晶のような物語が序盤で描かれている。

そして、彼女たちの辿る運命を憂いながら読み進める中で次々に現れる魅力的なキャラクターたちと積み重ねられる伏線、そして最後の怒涛の展開。

最高でーす。

なのになぜ、マイナス3点なのか。
理由としては、これらの物語が進む結果がカタルシスに繋がっているかというと少し微妙であるというところです。
本作は過程は描かれるのだが、結果は断片的にしか描かれないことが多い。

それはそれで、カッコいいし最高ではあるのだが、その展開を期待してページをめくっていた側としては少し肩透かしを喰らったような印象のシーンが総じて多かった印象がありました。

 

・終わり方(20点満点)
【18点】 

はじめに一つ言っておくと、最終話に込められた相田先生の込めたたくさんのメッセージに全て気付けているワケでは当然ないし、個人的な解釈しか持ち合わせてないです。

最終話の少女スペランツァは、トリエラの娘であり、ヘンリエッタと同じ髪型をして、リコと同じ瞳をして、クラエスと同じく眼鏡をかけたみんなの娘だ。

そんな彼女は無事成長し、少し年上のパートナーを見つけ、誰とも似つかない容姿で「希望」を語り物語は幕引きをしている。

というのが個人的な解釈での最後です。どの義体の少女も当然死んでしまったが、ヒルシャーとトリエラだけが未来に紡がれたのではなく、あらゆる少女たちの献身の末に希望ある未来が存在しているのである。

本当は最終話前の展開についても語りまくりたいがどうしてもこの最終話を語ってしまいますね。本編とは一見関係ないようで、本編の全てが詰まっているラスト。最高です。

 

 

以上となります。