【評価レビュー】響 〜小説家になる方法〜 作者:柳本光晴
響 〜小説家になる方法〜 作者:柳本光晴
ビッグコミックスペリオール:2014年18号〜2019年21号
【評価 60点】※採点基準についてはコチラ
◆総評
「天才」を描き切った結果……。
面白かったし、響というキャラクターは最高だった。他のキャラクター達も十分面白かった。ただ、最後まで読み終わったときの残った感想としては「文句なく最高!」ではなかった。
あくまでも妄想だが、本作は「響」という天才を描き切ったせいで、作者の構想通りに物語が進まなかったのだと思っている。詳しい理由は、後述しますが簡単な妄想を失礼します。
作者:「というワケで、色々あって小説家として生きていくと思うんだけど、
数年後の響は何してるの?」
響:「そんなの知らない。自分で最後まで描きなさい」
作者:「いや、この漫画は小説家への導入を描くものだからあとは、
読者の想像に委ねて少し先の未来であるエピローグだけを描きたいんだよ」
響:「何度も言わせないで、自分で最後まで全部描けばわかるでしょ」
作者:「それはさ……、流石に他の漫画も描きたいし難しいんだって、お願い!」
響:「あなたが描くのをやめるのは勝手。
でも私の未来を過程もなしに描かれたくない。諦めなさい」
作者:「いや、そこを……。頼むよ!!」ガシッ
響:ドガッ
結末:「響。」 完!
読者:「…………?????? 小説家になる方法は?????????」
この何とも言えない消化不良感は、こんな感じで生み出されたのでは?と思っています。
◆点数内訳
・キャラ、世界観、設定(20点満点)
【20点】
響というキャラクターは100点だと思う。
暴力的とも言えるほどの才能を持つイカれた天才少女は本当に最高だった。周りのキャラクター達も色濃く、次々とキャラが増えてもすぐに好きにさせてくれた。
バトル漫画以外でこれほどすんなりと新キャラを好きになれる漫画は少ないと思う。
20点という満点を出すのは、正直気が引けるが、ことキャラ・世界観・設定においてこの漫画を否定する理由が見つからなかった。
それほどの完成度だと思う。
動物園のパンダに「おい」
と言える主人公、……最高です。
・エンターテイメント(20点満点)
【13点】
響が喧嘩番長してるのも面白かったし、小説で無双するのも読んでて楽しかった。ただ、その過程が凝っているワケではなく、結果として最高の小説を読んだ他のキャラ達の反応が面白いというだけだった。
学生同士の薄い友情、歪な恋愛、小説を描く上での葛藤
どれも過程は面白くはなかったと思う。
・ストーリー(20点満点)
【8点】
本作は「響」という天才を描き切ったせいで、物語のストーリーが崩壊したと思っている。
柳本先生の過去作『女の子が死ぬ話』
これはタイトル通りのストーリーが結末までしっかりと描かれている。
しかし『響 〜小説家になる方法〜』は違った。
読んでても小説家をやめる方法は載ってるけど、なる方法は見当たらない。
柳本先生自体は、タイトルを回収する著者であるにも関わらず、響ではそれをしなかった。ただ、それを敢えてしなかったとは思えないのだ。
アクションコミックから小学館のビッグコミックスペリオールという大きな舞台に立ち、短編ではなく長編ストーリーを描くとなったとき、当然過去に成功したタイトルを使った読者誘導を使わないワケがない。
だが、響ではそうならなかった。
そして個人的には、そうならなかったのではなく、そうは出来なかったのだと思う。
特に大きな部分は、本作は「中原先生」以外のキャラクターにエピローグが存在しないことだ。中原先生は、2巻で小説家を諦めた先の人生の結末まで描かれている。
ここから想像できるのは、小説家たちの様々な行く末を描く漫画として本作が始まっていたということだ。
しかし物語は、小説家たちの物語から「響」の物語へと変わってしまった。
そして「響」を描き続けた結果、唐突な幕切れとなった。
響というキャラクター自体は最高なので、響を描くことに関しては全然いいと思う。
ただ、結果として物語の構造を変えたせいで本作のストーリーは響を困らせることだけに奔走することになり、空中分解のような幕切れを迎えた。
個人的にはそう感じました。
・面白さ(20点満点)
【14点】
あらゆる展開にめっちゃワクワクさせられた。
特に総理が最高でした。
しかし、響の足を引っ張る展開が続いたところで、この響に対抗するライバルは最後まで現れなかった。物語の構造が響の勝利の方程式からブレないとわかってしまうことで、面白さは大分半減してしまった。
せめて、他の小説家やキャラクターたちがどんな人生を歩むのか。そこにフォーカスしてくれればもっと作品世界に惹き込まれたと思う。
・終わり方(20点満点)
【5点】
打ち切りではなく、作者が潔く打ち切った素晴らしさへの5点です。
エピローグを描かない意味がないと思ってしまう。だって2巻で一人分書いてしまっているのだから。
本作が個人的な妄想ではありますが、当初の予定通り幾人もの小説家たちの結末を描き続けていれば、この「響」というキャラクターが海外で自己紹介して終わってもまだ納得できたと思う。だって、本作は小説家になる方法を描く漫画ってタイトルにあるんだもん。
だけど本作は違った。タイトル詐欺をしてまでも、響を描くストーリーになっていたのに彼女の行く末を一切描かなかった。
さらに響の将来を1ミリ見せないために、他キャラクターのエピローグを描かず完全シャットアウト。うーんこれはやっぱりヒドイ。
なぜなら、本作を4巻で買うのをやめても13巻まで買ってもおそらく得られる面白さは打ち切ったせいでほぼ変わらないから。
柳本先生が何を思って、これで完結としたのか真相はわかりません。
しかし、週刊少年サンデーより始まった次回作『龍と苺』では、またも天才少女を描いているのだが、響とは圧倒的に違う部分があると思っています。
それは「天才」だけでなく「少女」であることも強く描いていることです。
まだ新連載の1話しか読んでいませんが、次回作に大きく期待してます!!
以上となります。